睡眠をしっかりとっている人」と「起きている時間が長い人」では、どちらが痩せやすいと思いますか?
起きている時間が長い人のほうが、活動する時間が多い分、痩せやすいイメージがありますよね?ところが実際には、睡眠時間が短い人に肥満が多いことが研究でも分かっているのです。
睡眠時間と肥満のメカニズムには深い関係があります。そのメカニズムを知らずにいると、肥満、さらには生活習慣病を招いてしまうかもしれません。肥満を防ぐため、正しい睡眠のとり方をおさらいしておきましょう。
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睡眠不足の人は太りやすいことが調査研究で明らかに
日本大学で睡眠公衆衛生学を専門とする兼坂佳孝氏らの研究結果から、睡眠時間の短い人に肥満や体脂肪率の高い人が多いことが発表されています。
さらに、睡眠時間が5時間以下の人は睡眠時間を5時間以上確保できている人に比べ、1.36倍肥満になりやすいことも分かっています。
- 基礎代謝が下がって痩せにくくなる
- 起きている時間が長い分、間食する機会が増えてしまう
- 睡眠時間が短くなるほど食欲が増進する
一般に、起きている時間が長ければ寝ている時間が長い人よりも活動量が多い分、カロリー消費量も多くなると考えるのが普通です。
しかし、いかなる時でも「カロリー摂取量<カロリー消費量」が成立しなければ痩せることはなく、起きている時間が長いために食べる量も増えたことで「カロリー摂取量>カロリー消費量」となってしまったら、太ってしまうのも仕方ありません。
基礎代謝が下がって痩せにくくなる
睡眠時間が短くなると基礎代謝が低下し、痩せにくくなってしまいます。これには「成長ホルモン」の作用が関係しています。
基礎代謝とは、何もしなくても寝ているだけで消費されるエネルギー消費のこと。呼吸や心臓の動きなど生命の維持にも、最小限のエネルギーが必要となります。
基礎代謝に必要なエネルギー量を「基礎代謝量」といい、筋肉量によってその量が異なります。一般に基礎代謝量は、筋肉量の多い男性、若い人ほど高く、女性、中高年で低くなっています。
エネルギーは筋肉で燃焼されるため、筋肉量が多い人ほど効率良くエネルギーが燃焼されて太りにくくなり、逆に筋肉量が少ない人はエネルギーが燃焼されにくいので、自然と太りやすくなってしまうのです。
基礎代謝を高めるには、運動して筋肉量を増やせば良いわけですが、睡眠をしっかりとって成長ホルモンをたくさん出すことも大切なのです。
成長ホルモンは脳下垂体前葉体から分泌される、名前の通りに体を成長させるホルモン。成長期に分泌量のピークを迎え、成長が止まってからも代謝に関与して一生分泌され続けます。そして、睡眠中に分泌量が高まるのが特徴です。
成長ホルモンには、脂肪を燃焼させ筋肉を作り上げる役割があるため、分泌量が十分な人は脂肪が蓄積されにくく基礎代謝も高まりやすくなります。
逆に分泌量が不足している人は、筋肉量が増えないので基礎代謝が低下しやすい上に脂肪が蓄積されやすく、自然と太りやすくなってしまうのです。
成長ホルモンの不足で蓄積するのは、皮下脂肪と内脂肪です。内臓脂肪が蓄積するとお腹の出たメタボ体型を招くだけでなく、内脂肪から分泌されるPAI-1・TNF-α(俗にいう「悪玉サイトカイン」)が血糖値やコレステロール値まで引き上げてしまいます。
肥満と生活習慣病を予防するためにも、成長ホルモンを十分に分泌させることが大切です!
成長ホルモンの分泌量は、就寝して最初に訪れる「ノンレム睡眠」の時に最大となります。ノンレム睡眠とは、とても深い眠りの状態のこと。最初のノンレム睡眠は就寝してから約3時間の間に訪れるので「睡眠初期にいかに深く眠るか」がポイントとなります。
もし睡眠不足だと、成長ホルモンを十分に分泌する時間が削られてしまいます。また日頃から慢性的に睡眠不足な人も、睡眠リズムが乱れて深い眠りが得られにくくなっているので、成長ホルモンの分泌はあまり期待できなくなります。
起きている時間が長いと間食が増えてしまう
起きている時間が長いと食の誘惑も多くなり、間食が増えてしまう危険性もあります。
もちろん、「1日の摂取カロリー<1日の消費カロリー」を守っていれば、間食を食べても太ることはありません。
しかし睡眠不足の人は基礎代謝が低下して1日に必要な摂取カロリー量も少しで良くなるため、間食を多くとるとあっという間に1日の摂取カロリーが1日の消費カロリーを超えて、太りやすくなってしまいます。
中でも、夜遅くまで残業している人や夜更かしをすることの多い人は、夜食の食べ過ぎに注意が必要です。遅くまで起きていると夜中に小腹のすくことも多く、つい何かつまみたくなってしまうことが多いからです。
また夜更かしの習慣がついて寝起きする時間が不規則になると、日中の食事時間もバラバラになり、太りやすい食生活を招きやすくなります。
睡眠時間が短いと食欲が増進する
起きている時間が長い人でも、食生活をコントロールすることができ、摂取カロリーがオーバーしていなければ問題はないのです。
ところが私達の体は、睡眠時間が短いとホルモンの影響を受けて食欲が増進する仕組みになっているため、起きている時間が長いと食べ過ぎてしまう傾向があります。
食欲をつかさどっているのは、食欲を増進させる「グレリン」と食欲を抑制する「レプチン」の2つのホルモン。
調査研究により、睡眠時間がグレリンとレプチンの分泌量に大きく作用していることが証明されています。
英国のブリストル大学が睡眠時間と血液中のグレリン・レプチン濃度の関係を調査したところ、睡眠時間が短くなるほどグレリンの分泌量は増加し、逆にレプチンの分泌量は減少していることが分かりました。
またリヨン大学のシュピーゲル氏らによると、4時間睡眠で2晩を過ごした人と10時間睡眠で2晩を過ごした人を比較した場合、4時間睡眠だった人はグレリンの分泌が上昇しレプチンの分泌が低下しただけでなく、嗜好まで変化していることが分かりました。
4時間しか睡眠をとっていない人は、炭水化物、スイーツ、スナック菓子といった太りやすい食べ物を求めるようになっていたのです。
これはグレリンにエネルギーを蓄えようとする作用があり、睡眠不足でグレリンが増えると、体がエネルギーの材料となる糖質や脂質を強く欲するために起こっていると考えられています。
またカロリーでいえば、睡眠時間が短いだけで300~500kcal分も太る計算になってしまうといわれます。
睡眠不足になると自然と食欲が増進する上、カロリーの高いスイーツやスナック菓子が無性に食べたくなってしまう、しかも睡眠不足で基礎代謝が低下しているので、とったカロリーはなかなか燃焼することができない…だから太ってしまうのは当然です。
さらに、睡眠不足の人が食欲に任せて食べ続けていくと、レプチンの感受性が鈍って満腹感を感じにくくなってしまい、食べる量がどんどん増えては体重も雪だるま式にアップ…といった悪循環に陥りやすくなります。
肥満や生活習慣病を防ぐ正しい睡眠とは?
私達は睡眠不足による肥満を防ぐには、次のポイントを抑えることが大切です。
- 適切な睡眠時間を確保する
- 睡眠の質を高める
- 規則正しい食生活を心がける
睡眠不足の人には忙しい人が多いので、健康のためといえども十分に睡眠をとることは難しいかもしれませんが、少しずつ工夫をこらすことで睡眠不足を改善していきましょう!
7~8時間睡眠が理想
レプチンとグレリンの分泌のバランスは、睡眠時間が長くなるほど良好になります。しかし睡眠時間が長過ぎると体内時計が狂い、かえって疲労や睡眠障害を起こしやすくなります。
成人の場合、理想的な睡眠時間は7~8時間といわれています。睡眠時間がそれ以下またはそれ以上の人と比較した場合、最も病気にかかりにくく死亡率も低いためです。
中には睡眠時間が短くてすむ「ショートスリーパー」や標準より長い睡眠が必要な「ロングスリーパー」の体質の人もいますが、レプチンとグレリンの分泌のバランスを改善するためには、なるべく7~8時間を目指して睡眠をとるようにはしたいですね。
また、睡眠時間が5時間を切ると肥満のリスクが一層高くなります。睡眠には疲労回復という重要な役割もあるので、せめて6時間以上は睡眠をとりましょう。
睡眠の質を高めよう
成長ホルモンを十分に分泌させるためには、睡眠の質を高める工夫をして睡眠初期の3時間に深い眠りを得ることが必要です。
- 夜は暗めの照明で過ごす
- 就寝の2時間前にぬるめのお風呂にゆっくり浸かる
- 睡眠を浅くする「寝酒」を飲まない
- 寝る1時間前から考え事はしない
- 寝る前にパソコンやスマホの光を見ない
- 早寝早起きし、起床時に朝日を浴びて睡眠リズムを整える
- 日中に体を動かし、適度に肉体疲労させておく
といった工夫をするのが効果的です。
寝る前に静かに読書をしたり、寝始めに癒し系の音楽を流したりするのも良いでしょう。
ちなみに、最初の3時間に深い眠りが確保できれば何時に寝ても成長ホルモンが十分に分泌されることが分かっています。
22時~2時はゴールデンタイムと呼ばれ、成長ホルモンが最も分泌される時間帯とされていましたが、無理に22時台に寝る必要はありません。
ただし、睡眠時間を確保しつつ早起きして朝日を浴びるためにも、起床時から逆算してなるべく12時までには就寝するのが理想ですね。
また、寝る前にスマホを見る習慣のある人も多いかと思いますが、パソコンやスマホの画面から出るブルーライトは交感神経を興奮させて睡眠を浅くするので、寝る前の利用は控えてください。
規則正しい食生活を心がける
肥満は結局「食べ過ぎ」で起こっているので、食生活にも気を配る必要があります。
3食の食事は、毎日なるべく一定時刻にとるようにしてください。胃の中に食べ物が入っていると消化器に負担をかけて睡眠が浅くなるので、夕食は就寝の3時間前までに済ませるのが理想です。
もしもやむを得ず、それ以降に食事をとる場合には、消化の良い物を食べるようにしましょう。雑炊、うどん、そば、スープなどがおすすめです。
寝る前に小腹がすく場合は、ホットミルクや豆乳に蜂蜜を入れてカップ1杯飲むと良いでしょう。アルコールと胃にもたれる物は睡眠を浅くするので控えてください。
日本人は睡眠不足!痩せたかったらもう少し眠りましょう!
現代人は夜型の生活が当たり前となり、50年前に比べると日本人の睡眠時間は1時間近く短くなっています。また世界各国と比較しても日本は睡眠時間が短いので、私達日本人はもう少し寝たほうが良いのかもしれません。
今回の記事で主なキーワードとなった「食欲」は、飢餓から身を守りエネルギーを適切に補給するための重要な欲求です。食欲はどうしてもムラが出やすいので、自己管理で適切にコントロールしていく必要があります。
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